uramado-top

純情

1993年
作詞 阿久悠 作曲 加藤和彦
シングル「純情」/アルバム「豊かなる一日」/アルバム「AGAIN」/DVD+CD「TAKURO YOSHIDA 2012」/DVD+CD「TAKURO YOSHIDA 2014」

俺達のとんだ失敗は先に逝ってしまったことだけ

 加藤和彦・吉田拓郎がデュエットしたこのシングル「純情」は、1993年12月、ひっそりと発売され、94年の元旦、テレビ東京の単発の地味なドラマ「織田信長」の主題歌に一回だけ使われ、ひっそりと消えて行った。オリコンによると売上枚数は4000枚。だいたい「時代劇」に「加藤和彦」ってどうなのよ。まさに疾風のように現れて疾風のように去って行ったので、拓郎ファンでも知らなかった人も多い。
 この作品が再び蘇生し、大いなるスポットを浴びたのは、その10年の後2003年。肺癌の手術と闘病から復帰した初のビッグ・バンドツアー「豊かなる一日」。その本編ラストという大事なフィナーレ場面に突如現れた。この作品を知っている人はその意外な選曲に驚き、知らない人は、すわ新曲かと戸惑った。その後拓郎は、「ジャスト・ア・RONIN」同様に、歌いこなして自らのスタンダード化している。
 「ONLY YOU  ONLY YOU まだ足りないまだ足りない」のリフレインが、なだらかな海を漂うように心地よく続いていくと、自然と身体が揺れてくる。まさしく豊かなる気分にさせてくれるようでフィナーレにうってつけだ。ま・・でも、今後はそんなに演らなくていいからね。と思ってたら、2012、2014年のライブではフィナーレに落ち着き、アルバム「AGAIN」でセルフカバーまでされた。着実に不動のスタンダード化をしている。
 作詞の阿久悠も自著「なぜか売れなかった愛しい歌たち」というエッセイで取り上げている。この「純情」は、「男の子の歌」だそうだ。「男の歌」というとまた筋肉タンクトップ系の別世界に行ってしまうが、「男の子」というセンスがいい。
 このエッセイで面白かったのは阿久さんが何気に「加藤和彦ファン、吉田拓郎シンパ・・・」と記していたところだ。加藤和彦なら「ファン」だが、吉田拓郎は「シンパ」。なるほど。私たちは覚悟ある「シンパ」なのか。そして阿久さんは、歌謡界とニューミュージック界という異質の世界にあって、拓郎たちとはお互いに距離を置いていたことが語られている。
 それでも阿久さんが数少ない拓郎との共作、石野真子「狼なんか怖くない」石川さゆり「月の盃」などを高く評価してくれているのが嬉しい。拓郎も最近(2011年)になって阿久悠の詞の素晴らしさを語るようになった。やはり拓郎もかつては歌謡曲のドンのような阿久悠を敬遠していたこと、世間ではナンバー1の作詞家と評されているが、拓郎にとってのナンバー1の作詞家は盟友・松本隆だという意地があったとも語っている。  しかし、そういう対立構図が時間とともにノーサイドになってしまうと、拓郎と阿久悠の心底にはお互いに共感だけが残ったのかもしれない。 松本隆と組んだ「ローリング30」、安井かずみと組んだ「サマルカンド・ブルー」があったように、阿久悠と組んだアルバムがあったらどうだったろう。それを思うと残念でならない。
 かくして加藤和彦が去り阿久悠が去り、ひとり残された拓郎は、大切にこの作品を愛でている。そうそうシングルの写真、加藤和彦と拓郎がイタリアン(多分)食べながら談笑している絵はなかなかいい。

2015.10/10