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準ちゃんが今日の吉田拓郎に与えた多大なる影響

1972年
作詞 吉田拓郎 作曲 BOB DYLAN
アルバム「たくろうオンステージ第二集」

僕の青春は恋と歌の旅、ハンカチから顔をあげよ

 明るい青春歌謡の「じゅんちゃん」に対して、この歌で描かれているのは、準ちゃんに対する高校時代の淡い憧れと失恋だけではない。その後20歳の誕生日の再会と二度目の失恋という苦渋の中から音楽家として旅立つシリアスなドラマだ。
 原曲は、ボブ・ディランの「ハッティキャロルの寂しい死」で、原詩とは全く異なるが、その切なさと泣ける度においては、ひけをとらない・・・と思う。
 翻弄されっ放しで、結ばれることのなかった憧れの君。
 「僕の青春は恋と歌の旅、果てることなく・・・君がいなければ今の僕はなかったかもしれない」ここのフレーズが胸に焼きつく。苦渋に満ちた二度目の悲恋、そして彼女自身の薄幸な消息に涙しつつ、拓郎はボブ・ディランと出会い、彼の歌を支えに、音楽家として旅立つ決意が歌われる。飾り気のない歌詞だが、実に心に迫る。
 しかし、これだけ歌われれば準子さんも光栄な反面、いろいろ大変だったのではないか。一度だけだ中村雅俊との広島紀行のテレビで姿を現したことがあったが、準ちゃんの消息とかがネットで噂されることも今だに多々ある。拓郎ファンとしては気になったりもするが、ご本人には大きなお世話だろう。
 そもそも魅力の本質は、本当の準ちゃんがどういう人かということでなく、彼女への若き日の恋心をここまで鮮烈に音楽にこめることができた拓郎の資質にこそある・・と自戒をこめて思う。公式音源としては「オンステージ第二集」(公式と言ってよいのか)だが、拓郎が大学生の頃、泣きながら歌っている自宅録音の音源もラジオで一部だが公開されたことがあった。
 長尺の曲だが、後年もライブで、必殺技のように歌われた。79年の秋ツアー、それから91年のデタントツアーが、印象に残っている。いつの時代でも本気で歌われると拓郎の圧倒的な情念が胸に迫る。客席に感動がたちこめて原曲のディランの歌詞の最後「涙ぬぐうハンカチに顔を深く埋めよ 今こそ涙するときだ」というフレーズがぴったりとくる。
 ところで歌詞で、「学校で変な噂がたった」とあるのは、写真部の拓郎が文化祭に出展するために頼み込んで準子さんのポートレイトを撮影したところ、「ヌード写真を撮った」という噂が学校で広まり、怒った準子さんは拓郎に対して自分の写真を全部に返すよう迫ったという失恋の引きがねになる事件のこと。
 拓郎曰く「写真はみんな返したけど、ホントは一枚だけ残しておいた。だって可愛かったんだもん・・・」
・・・・こういう人間的なところも拓郎の魅力の一端だ。

2016.2/20