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情熱

1983年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「情熱」

スローな距離にしてくれ

 1983年11月発売のアルバム「情熱」のまさにタイトル・チューンだが、その1年前の1982年王様達のハイキング・秋ツアーで既に歌われていた。しかも、この曲を含む82年の秋ツアーは、広島県体育館での模様がFM広島開局記念番組として全国のFM曲で流れたので、かなりのファンがアルバムの公式録音盤前にこの作品を聴きこんでいたはずだ。
 初出のライブ・バージョンと後のアルバム・レコーディング・バージョンは、同詞・同曲だが、前者は、スローバラード風だったのに対して、後者は、ミディアムテンポのポップス調であり、かなり作品の様相は異なっている。
 「結婚」という池を見つめながら、その周りをぐるぐる廻る恋人たち。好きだけれど一緒にならないという一見理不尽な心情を歌った「こっちを向いてくれ」という作品があるが、この作品は、その理由の解説バージョンのような詞だったりする。
   「まだまだ二人は苦しまなきゃね」「まだまだ二人は一人一人だからね」
 この詞を深み味わうには、やはりライブでのスローバージョンが圧倒的にイイ。最初に聴き馴染んだからだけではないと思う。スタジオ公式バージョンは、アップテンポでせわしなく、どこか言い訳がましい歌に聴こえてくる気がしてならない。ま、当時の拓郎の状況を考えると、この作品はそもそも勝手な言い訳だという批判もあったものの、恋する二人の距離を注意深く見定めようという詞は、他に類例を観ない拓郎ならではの出色の詞だ。この当時の拓郎の口癖のように「人はみんな最後は一人なんだ」「男も女も自分の足でしっかりと立つべきだ」と語っていたが、このポリシーの恋愛版がこの歌なのだと思う。
 相手の心に寄り添うように語りかけながら、同時に、自分の心にも一言一言かみしめるように刻みつけていく、そんな拓郎の歌心がスローバージョンではよくわかる気がするのだ。「雨の日に大好きな車を走らせ・・・」こんなさりげない言葉にも妙に胸がいっぱいになるような情感を感じてしまう。
 またスローバージョンでは、パワフルな印象が強い王様バンドが、拓郎の歌声を静かに真綿でくるむようなリリカルな演奏を魅せ大切な役割を担っており、あらためてこのバンドの凄さを思う。 スローバージョンは9分間近くと長いので、忙しい人のため用のアルバムバージョンバージョンが必要だったのかもしれないが、このスローバージョンも、きちんと保存されるてしかるべきだろう。

2015.10/10