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人生キャラバン

1986年
作詞 安井かずみ 作曲 吉田拓郎
アルバム「サマルカンド・ブルー」

人生とはあなたの背中を追いかけるCARAVANだから

 アルバム「サマルカンド・ブルー」のラストナンバー。小さな短編サイズの作品であるが、スケール感と深みのある作品だと思う。アルバム「サマルカンド・ブルー」の最初の仮タイトルは「CARAVAN キャラバン」というものだった。ということはアルバムのポジショニングとしては象徴的で大切な作品だったことが窺える。残念ながら、後年、拓郎は、このアルバム「サマルカンド・ブルー」を失敗作と総括する(島崎今日子「安井かずみのいた時代」より)し、その中の小品ゆえにもう忘れているかもしれない。また当時の「シンプジャーナル」の特集ですら、「人生キャラバンのこの寒々とした風景の中には住みたくない」という趣旨の手厳しい不評が載っていた。「巨人」に「報知」、「阪神」に「デイリー」、そして「拓郎」に「シンプ」といわれたほどのメディアでもこれだ。
 しかし、この作品は、拓郎、安井かずみ、ひいては聴き手の私たちの人生そのもののエッセンスなのではないかと思う。言ってみれば、安井かずみと拓郎の共作は「金曜日の朝」に始まり、この「人生キャラバン」で締めくくられると言っても過言ではない・・・たぶん。少なくとも個人的には、二人の最高傑作ではないかと思う。安井かずみは、アルバム全体について「シルクロード」を舞台に描いていたという。そのシルクロードの砂嵐の中を、ひたすら西に向かって旅する男と女。夢を葬る時に添えるサラソーの樹(沙羅双樹)は、お釈迦様が旅の果てに、この木の下で最後の説法をしつつ亡くなったという聖なる木だ。「死」と「永遠の命」を意味する。未完の夢を見て、道なき道を行く二人。安井かずみの描く、吉田拓郎の姿の究極の結晶なのではないかとも思う。
 安井かずみはアルバム「サマルカンド・ブルー」の拓郎のボーカルを最後のライオンの咆哮と言ったが、なんと言っても拓郎の歌声が最高にイイ。寂寥感あるピアノをバックに切々と歌うボーカルの素晴らしさと言ったらない。ピーンと張った糸のような緊張感と途方に暮れたくなるような寂寥感とを併せ持って進んでいく出色のボーカル。特に「炎にかざした おれとおまえの 『このぉぉぉぉぉ』手には」のシャウトの透明感。拓郎がアルバムの楽曲で本格的にシャウトするのはこれ以後は殆どなくなる。
 このボーカルを静かにアシストする硬質のピアノ、そして間奏のドラマチックで情感溢れる高中正義のギターも特筆ものだ。願わくば、この作品はライブで演っておくべきではないのか。ビアノソロと拓郎の歌声がステージに沁み渡るように広がり始め、やがて間奏でビッグバンドが砲撃のように一斉に鳴り出すというドラマチックな演奏を夢想しているのだが。
 しかし、安井かずみそして加藤和彦までもが亡き今、一人で西に向かうこの歌は拓郎には過酷すぎるだろうか。・・・大丈夫だ、御大、私たちがついている。ダメか。ささやかな小品かもしれないが、私たちがそれぞれの道なき道を放浪する時、お守りのように携行したい佳曲だと思う。

2015.4/18