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蛍の河

1974年
作詞 岡本おさみ 作曲 吉田拓郎 歌 小柳ルミ子 
小柳ルミ子 アルバム「あたらしい友達」

「蛍の河」が綺麗よ、聞かせてあげたい

 1974年5月に発売された小柳ルミ子のアルバム「あたらしい友達」に名曲「赤い燈台」とともに所収された。”小柳ルミ子フォークを歌う”とでもいえそうなコンセプトアルバムである。「赤い燈台」もこの「蛍の河」も、あくまでアルバム所収曲でシングル盤にはなっていない。正確には「赤い燈台」はシングルのB面にはなったが。もったいねぇ。♪友達ならそこのところ、うまくやってよ。三人娘の天地真理への提供曲「さよならだけ残して」もアルバム曲だった。この頃、既にスーパスターを張っていた吉田拓郎だが、いかに当時のナベプロのトップアイドルの権勢は凄かったかを感じずにはいられない。

 この「蛍の河」は後先を考えずに言うと、吉田拓郎と岡本おさみの最高傑作なのではないかと思う。後先考えずと言ったのは、じゃあ、この曲やあの曲よりもイイのかと理詰めで問われると困るからだ。しかし、この作品を聴いている時は、これはもう最高傑作と言わねば失礼にあたるくらいの充足感がある。
 岡本おさみの作詞、吉田拓郎のメロディー、そして小柳ルミ子の歌唱が、ホップ・ステップ・ジャンプという感じで見事な高得点のワザに結実している。どれひとつとっても、かけがえなく、また遜色もない。ホップ(詞)・ステップ(曲)と来てジャーンプ(歌唱)というところでコケることが多いのが提供曲の常である。しかし実に見事なジャンプ、つまり小柳ルミ子の歌唱力が鮮やかで素晴らしい。神歌唱と言っても良い。
 名詩、名曲なれど、岡本おさみの詞も字余りだし、御大のメロディーも難解である。カラオケで歌ってみるとわかる。♪仮の宿り~、♪恋しさも切なさも二人になりたいばかりーでーす、♪ああ蛍の河よ 光なさぁい~、ここらあたりの音程がとても掴みにくい。しかし、小柳ルミ子の懐の深い歌いっぷりは、見事にこれらの難解なメロディーを咀嚼し尽し、まるでおだやかな海に身を任せるような気持ちいい安定感がある。そういう意味では「赤い燈台」の難メロ咀嚼力にも同様に驚く。とにかくすごいぞ、ルミちゃん。三人娘の中でただ一人歌手として生き残った理由もわかろうというものだ。
 岡本おさみの詞は、浴衣、下駄の音、静かな闇、恋しさ、切なさという夏の情景や恋する心情を通して、蛍の美しさを描き出している。そしてこの詩に情感をたっぷりとこめながらも、決して演歌調にはならない御大の美しいメロディーの技が加わる。蛍といえば、例えば宮本輝の小説「蛍川」の名文と言われる一節が浮かぶ。「蛍の大群は、(略)天空へ天空へと光彩をぼかしながら冷たい火の粉状にになって舞あがっていた。」しかし、これに比肩するような美しさを、この詩とメロディーは描きそして歌い上げている。最高傑作と称揚したくなる私を許してくれ。

 それにしても「蛍の河」とはどこなのだろうか。岡本さんに聞いてみたかった。後年「歩道橋の上で」の中で♪蛍が綺麗よ見せてあげたい指の先にも止まってるの…という名フレーズに出会う。ということは蔦沼あたりなのか。
 さて、本人歌唱はバンジョー鳴り響くライトな感じで歌われたが、アルバム「今はまだ人生を語らず」のアウトテイクとなってお蔵入りしてしまった。オールナイトニッポンで一度だけ流されたのが貴重な音源となっている。どこの蔵に仕舞った。出せ、出してくれ。アウトテイクをテイクアウトしてくれ。ルミちゃんも、セルフカバーするなり活用して世間に知らしめてくれないだろうか。サッカーの解説している場合ではない。いや、結構な名解説なので続けてくださっていいけど。歌ってよ、蛍の河を。

2018.2/24