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ひとつまえ

1980年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「アジアの片隅で」

この星が果つるとも

 アルバム「アジアの片隅で」所収のこの作品。やや陰隠滅滅とした地味な曲調で、「あなたも一緒に死にませんか」と語りかけてくる衝撃的な詞の内容に驚く。「元気です」の一曲前に入っている歌とは思えない暗さ。「陰気です」とでもタイトルを変えた方が良かったのか。などなど誤解が多かったのかもしれない。この作品がステージで演奏された80年の渋谷公会堂で御大が直々にこの作品について解説してくれた。
 この作品が発表された1980年当時、よく当たるという預言者だか占い師だかと会ったそうである。その預言者・占い師曰く「もうすぐ地球は滅亡する。でも、優れた選良や心がけの良い人は、宇宙人から宇宙船か何かで別の星に救出される」という御託宣だったとのことです。バカじゃねぇのと思うが、地球がいい方向に行っていないことは今も変わらない。
 一緒に話を聞いていた「南こうせつ」はこのご託宣に衝撃を受けて、その日以来「人類愛」「世界平和」の歌を歌いだしたとのことだ。あくまで御大談であるが。
     "雲の上と呼ばれれば この人も行きたいさ"
とはご存知質感男・南こうせつさんのことということになる。
 一方、拓郎はどうか。「地球が滅びるとしてもこの世の最後だとしても冗談じゃない、生き伸びるために"良い人"になんかなりたくない、オレはこのまま好きに生きて死んでやる。どう?あなたもそうしようよ」
  という歌だというご解説だった。ご本人が言うからそういう歌に間違いない。ある意味投げやりな、ある意味でとてもポジティブな作品だ。そう思うと、珠玉のフレーズが散りばめられている。
  "一日を思うだけで 浅はかを選びたい"
  "確かに生きるため 無駄な時が好き"
  "悲しみも喜びも遅れないうちに確かめろ"
 詞のひとことひとことが実に胸に響いていくる。決してみんなで自殺しましょうなどという歌ではなく、自分の心と命を誰にも奪われずに大切に生きていこうという"ポジティブ"な御大の歌であることが確認できる。地球が滅亡の「ひとつまえ」段階であろうとも御大とともにこの崖っぷちの時代を生きる歌として大切にしていきたい。そんな静かな決意の共有の歌だと思う。

2016.2/27