ひらひら
作詞 岡本おさみ 作曲 吉田拓郎
アルバム「よしだたくろう LIVE73」/アルバム「TAKURO TOUR 1979」/アルバム「みんな大好き」/アルバム「18時開演」/DVD「79 篠島アイランドコンサート」
翼よ、あれが金沢の灯だ
この作品は「数ある名曲の中でも『絶品』です」と79年のライブで拓郎は語った。そして「(この)絶品といえば金沢・・」と続け、この作品と「金沢事件」が不即不離の関係にあることを認めている。
かつて「金沢事件」の不起訴釈放後の記者会見で、拓郎は「みんな檻の中」という歌を作ったと語った。そして釈放直後の伝説の神田共立講堂で「人間なんて」の中で「10日余りの時間を返せ」」「みんなみんな檻の中、自由と言う名の檻の中」と絶唱した。
その一年後、74年春のツアーで、「忘れかけた一日」という金沢事件の顛末を綴った全長11分もの作品を披露した。これが「みんな檻の中」に相当する作品のかはわからないが、「忘れかけた」どころか1年経っても拓郎の心の傷は癒えていないことが伝わってきた。 この事件を本人が歌にすることは、あまりに生々しく凄絶すぎるのか。やはり、他人の抽象的な言葉の方が歌いやすかったのだと思う。「忘れかけた一日」は、封印されたまま、岡本おさみの詞になるこの作品が「金沢事件」の闇を背負った唯一の公式作品となる。
「見出し人間」・・・、もちろん拓郎作品の中だけでの用語だが、金沢事件の弁護人だった久保利弁護士の定義によると「新聞や週刊誌の見出しを一行読んだだけで『おっ アイツやったな』と簡単に信じてしまう」人のこと(雑誌「フォーライフ」創刊号より)。この「見出し人間」と「それを増幅するマスコミ」によって、完膚なきまで痛めつけられたのが金沢事件だった。
町にも通勤電車にも溢れかえる膨大な「見出し人間」の群れを皮肉と無力感をこめて歌うこの歌は、やがて「用心しろよ 用心しろよ そのうちキミも狙われる」という核心たる戦慄のフレーズに向って進んで行く。
この作品には、そんな拓郎の絶望と警鐘が、ないまぜになりながら込められている。かくも凄絶な作品であり、だからこそ絶品なのだ。その怨念が、もっとも発揮されているのが、「TAKURO TOUR 1979」に収録された79年バージョンだろう。演奏の充実度も素晴らしいし、「用心ろよぉ、ああああああああ」の怒れるシャウトが実に素晴らしい。
ずっと後になって「LOVELOVEあいしてる」関連のセルフカバーアルバム「みんな大好き」に収録された「ひらひら」を聴いた堂本光一が「拓郎さん、これ何でこんなにムチャ怒って歌ってるんですか?」と尋ねたという。
隔世の感がある・・・って、隔世なもんか。「見出し人間」たちは、今や一人一人がSNSという、マスコミに負けない増幅装置をもって、人間を葬ることぐらいワケもないチカラをもってしまったのだから。この歌の鳴らした警鐘は、より切実なものとなって現在も鳴り続けていることを忘れてはならない。
2015.10/13