光る石
作詞 森雪之丞 作曲 吉田拓郎
アルバム「176.5」
拓郎さんオカマって言っちゃ嫌
置き去りにされた感の強い、森雪之丞との共作群のひとつ。アルバム「176.5」の中では「俺を許してくれ」「車を降りた時から」「しのび逢い」等、拓郎本人の作詞作品が秀逸なためか、どこか印象が薄い。
森雪之丞。当代屈指の凄腕作詞家であることは間違いない。しかし個人的な印象だと、無頼派の旅人岡本おさみ、はっぴいえんどの松本隆らと比べると、妙に軽い気がする。すまん。かつて文化放送の「ゴー!ゴー!キャンディーズ」で毎週、キャンディーズとのくだらねーコントが忘れられないし(知る人ぞ知る「宛先ロック」)、この共作のずっと前から私生活でも親交があった拓郎は「オカマの作詞家森雪之丞」として何度もネタにしていた。なので、どうもオーラが薄いのだ。
この作品中、「強い男は魅力的だよ・・」という件になると、オネエ言葉で「んモゥ、拓郎さん、好き好き、チューして はあと」と迫ると言ってた森雪之丞の姿が浮かんできてしまう。それらを一切捨象して、聴き直すと映画のようなドラマチックな歌詞であることに気づく。
独断すれば、岡本おさみがモノクロのATG映画、松本隆はヨーロッパ映画とすれば、森雪之丞の詞は、バブルの頃のトレンディドラマのようだ。乾かない下着を詰め込んでヒール響かせ、らせん階段を駆け下りる女性。なんかそれっぽい。
二番の「若すぎる夢たちの死体がからみつく」と鋭くもどぎつい表現。拓郎に似合うかどうかは別にして「光る石=ダイヤモンド」に収斂するサビもさすがだ。
提供曲に対するかのように拓郎のメロディーもややよそゆきで洗練された感じでポピュラーな作品に仕上がっている。それこそ、当時のテレビドラマの主題歌としても十分通用したと思う。
さて、コンピュータ打ち込みシリーズの最終作である本作では、ついに打ち込みを自家薬篭中のものにした拓郎のアレンジの腕が冴える。アレンジに漲る気合を感じる。特に間奏は、しつこくないか?というくらい凝りに凝っている。この間奏のシンセのメロディーを聴きながら、拓郎のデビュー前の朝日ソノラマ「真夏の青春」の「僕一人」を思いだす。若き拓郎が、ストリングスのアレンジを初めて一人でやったというが、そのメロディを彷彿とさせる。どちらも丹念に音楽に取り組む御大の姿が浮き出ている。
2016.1/30