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ハートブレイクマンション

1978年
作詞 松本隆 作曲 吉田拓郎
アルバム「ローリング30」

もうすぐ築40年の人生いう名のマンション

 アルバム「ローリング30」の中で、一番最初に世間にオン・エアされたのはこの作品だ。・・・だからどうした。すまん。レコーディング中の箱根ロックウェルからのラジオ中継(セイヤング)で、出来立てホヤホヤの新作をお披露目するコーナーの第一曲目だった。

 しかも、そのテイクは、歌詞のミスがあったことから、没テイクになってしまった。歌詞のミスは、「日照」=「ひあたり」を「ひでり」と読んでしまったこと。公式盤では、キチンと「ひあたり」と修正され歌われている。
 御大は、松本隆が歌詞に「ひでり」とフリガナをふったせいだと説明し、そのまま歌ってしまった自分を恥じるところが無い。気づくだろう、フツー。とはいえこのラジオで流れた没テイクはマニアにとっては貴重音源となっている。
 間違えた作詞家、間違えたまま歌ってしまう歌手、それをレア音源だとありがたがる私たちマニアなファン。ミスがあっても誰も不幸にならないこのシステムに感動を禁じ得ない。あのな。

 「ハートブレイク」というフレーズは、このアルバムの作品「英雄」と同様に前年に亡くなったエルビス・プレスリーに対する敬愛だろう。それにしても、303号室は少女、505号室は中年夫婦、707号室老人・・と階が上にいくほど天国に近づくイヤなマンションだ。
 それは冗談にしても、前奏と後奏のセリフは、大切だと思う。苦い暮らしを見つめながら、階上へ登っていく主人公つぶやきは、この作品の背骨のようなものだ。拓郎は、きっとセリフ読みが恥ずかしかったに違いない。発表翌年の篠島での弾き語りまでは、きちんとセリフを入れて歌っていたが、その後、2005年のステージにいたるまで、このセリフはカットされている。作詞家に無断で勝手にカットしていいのか。作詞が川内康範先生だったら大変なことだ。

   この作品でも箱根ロックウェルチームの仕事が実に素晴らしい。緻密な仕事にもかかわらず、ふんわりとした柔らかなサウンドに仕上がっている。特に間奏で、縦横にはねまわるようなキーボードが実に小気味よく心地よい。最初の没テイクでは入れ忘れた、後奏の石川鷹彦のアコースティックギター。拓郎のつぶやきに寄り添うような美しい音色で最後を飾る。ともすると陰鬱になりそうな詞に、あたたかみを感じるのは、この演奏の力が大きい。
 ステージでは、弾き語りが多かったが、突如登場した2005年のビッグバンドのフルバンドバージョンも忘れられない。この演奏が公式音源として残っていないのは淋しい。この音源を、ひでり・・でなく、ひあたりの良い場所に連れ出してほしいものだ。うう、ベタか。

2015.8/21