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遥かなる

1996年
作詞 石原信一 作曲 吉田拓郎
シングル「遥かなる」/アルバム「感度良好波高し」/DVD「TAKURO & his BIG GROUP with SEO 2005」

家好き少年の壮大なる放浪

 とても個人的な感覚で申し訳ないが「遥かなる」というタイトルがどうしても気になる。何がって、形容詞で終わっているところだ。「遥かなる○○」とか名詞で終わってないと妙に落ち着かない。同じものに「大いなる」がある。あっちは、「大いなる人」というアルバムタイトルまであるのに、敢えて「大いなる」で形容詞止めをする。もちろん余韻をもたせるとかいろいろ意味はあるのだろうが。あぁ落ち着かない。こうなったら、もう一曲「〇〇なる」を作って「なる三部作」にしてもらいたい・・・って好きなのかよ
 オーソドックスで重厚かつ貫禄あるメロディー。95,96年というフェイドアウトしつつある吉田拓郎という淋しい印象の漂う時期に、これだけのメロディーが作れたということは、当時は、結構衝撃だったし、感動したものだった。やはり吉田拓郎天才であり、松本隆の言うとおり「筒美京平と吉田拓郎は体全体が音楽の魂」なのだ。
 ここでも石原信一の作詞の腕が冴える。少年の頃、故郷を出ることを夢見る。別天地のような大人の世界に憧れる。しかし大人になり都会での殺伐とした人生。こんなはずじゃない。ここじゃないanother worldを求めさまよう。
   石原信一は、わかっている。「吉田拓郎」とは「放浪」である。身体の放浪、魂の放浪、人生においての放浪。口先だけで「放浪」を歌うミュージシャンは多い。しかしホントの「放浪」は少ない。小田和正、井上陽水、矢沢永吉、桑田佳祐他のミュージシャンの多くは「放浪」ではなく「定住」の人である。自分がキャッチした、その場所にいかに深く根を張って大きな城を建てるか、その城の周りにいかに壮大な城下町を創り上げるかに腐心する。そしてたぶん世の人々は、その城の立派さをほめたたえる。
 しかし、拓郎はそんなこと関係なく1人孤影悄然と旅に出るのだ。「今日より少しでもいい一日」を求め放浪をする。他のミュージシャンが誇らしげに建てた立派な城とそれを取り巻く華やかな城下町に目もくれず、その横を通り抜け放浪を続けるのだ。いや、ちょっとは目をくれるかもしれないが(笑)、やっぱり自分には似合わないと放浪を止めない。
 そこに吉田拓郎のたまらない魅力があり、またファンからみればそこに歯がゆさがあったりする。しかし放浪する人のファンである以上、ファンもまた一緒に放浪する宿命なのだ。
 「迷いなき覚悟ある放浪」と言う意味でこの重厚なメロディーが実にマッチしている。そうなると外人バンドの演奏も実に素晴らしかったが、どうしてもビッグバンドによる頼もしい鉄壁の演奏に支えられたライブバージョンが忘れられず、これこそがベストテイクであるといわざるを得ない。 別にどれがベストか無理して決めることもないのだが。

2015.11/29