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ハート通信

1979年
作詞 松本隆 作曲 吉田拓郎 編曲 馬飼野康二
石川ひとみ・シングル「ハート通信」

会えない時が長過ぎても忘れない…ヒュルルルル

 「アゲイン」の項でも記したが、この作品は1978年12月発売のアグネス・チャンのアルバム「ヨーイドン」に収録されたのが出自だ。78年のアグネスの復帰作”アゲイン”とほぼ同時期に作られた作品だと思われる。復帰したアグネスがアイドル・セールス的にはいまひとつ大きくブレイクしなかったことも手伝って、この「ハート通信」もアルバムの一曲として静かに埋もれてしまったかのようだった。
 そして突如として翌年の79年8月。プリンセス・プリンプリンのアイドル石川ひとみの第6弾シングルとしてカバーされることとなった。いよいよシングル盤での旅立ちである。後に御大はラジオで「この曲は、どこ行ったのかと思ってたら、石川ひとみさんのためにナベプロが温存していたということだった」と語っていた。また、石川ひとみのキッチリした開口歌唱の見事さと歌唱力の高さを高く評価し満足していた。確かに、アグネスのバージョンは、やはり日本語に不慣れということもあってか、言葉をうまく捉えきれずに、曲とテンポに追い回されているような感じがする。しかし、石川ひとみの朗々として余裕のある歌唱は、多少大袈裟な感じがしなくもないが、ドラマチックなメロディー構成のこの作品を表情豊かに歌いこなしている。まさに完成バージョンだ。

 とにかくこの陽気なポップ感が横溢し、音符たちが跳ね回っているのが見えるようなメロディーこそが真骨頂である。個人的には、これぞ拓郎のアイドルポップの最高峰の作品だと思う。もう理屈でなく、メロディーの中盤の”Heart to Heart 会えない時が長過ぎて” ”Heart to Heart あなたの声が聴こえない”の卓抜したメロディー。ここで曲はビシッとキまる。頭から離れぬこのフレーズを聴くたびに心が高揚してくる。この作品に限って言えば、格別に松本隆の詞が素晴らしいわけではなく、もっぱら御大の身も心もホップするようなメロディーの炸裂のお手柄であるといいたい。
 "ハート通信ヒュルル”という当時としてもウッカリすると超絶ダサくなりそうなフレーズをウキウキするようなポップ感で泳がせるメロディーの説得力。かつてのラジオでは、御大のファンキーなデモテープも聴かせてくれたが、御大の意図を汲みつつ弾けるサウンドに昇華させた馬飼野康二のアレンジの手腕も冴える。御大が馬飼野氏を高く評価するのもわかる。

 ところがところが…かくも素晴らしき名作でありながらも売上的には報われなかった。後々石川ひとみは引退すら考えるようになり、"まちぶせ”が売れるまでは厳しかったらしい。さらにその後は、肝炎という病魔との苦闘の道を歩む。なので最近になって子ども番組等で活躍される元気なお姿が嬉しい。ヒットこそしなかったが、"ハート通信"という御大のかわいい子どもが、こんな風に石川ひとみによってキッパリとした作品として残ったことは、御大流に言えばいい旅をしたのだと思う。できうれば、石川ひとみさん、今も変わらぬあの清清しい笑顔で、この作品をもう一度旅に連れ出してはくれまいか。

2017.6/14