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ハイライト

1971年  作詞 岡本おさみ 作曲 吉田拓郎
アルバム「唄の市」/CD「LIFE」

私はタバコが好きなのです

 作詞家岡本おさみと吉田拓郎との記念すべき共作第一号である。栄光のコンビの船出はココから始まったのだ。ラジオの放送作家だった岡本おさみは詞を書きためた自分のノートを拓郎に渡し、気が向いたものから拓郎が曲をつけて歌うことになったという。まるで学校の教室か部室で見られた一光景のようなのどかな始まりだ。その中で「ハイライト」と「花嫁になる君に」が、最初の作品となった。しかし、岡本おさみはこの作品「ハイライト」にいきなり不満を露わにしたのだった。
 当時のフォーク歌手が勢揃いするコンサート「唄の市」の実況録音盤がこの作品の唯一の音源(後にベストCD「LIFE」に収録)だが、拓郎は、コミックソング調のメロディーをあてがい、"ばからしい"などと詞に、いちいちツッコミを入れながら歌う。客はドッカンドッカン笑う。岡本おさみは「これはそういう歌ではない。違う。」と拓郎にクレームをつけ、若き拓郎がこれに応ずるはずもなく「違わねーよ」ということで、二人の仲はいきなり険悪になったようだ。
 思うに「唄の市」は、拓郎ファンばかりではなく、むしろウルサ型のフォーク信者が多く「オンステージともだち」なんかとは違う、殺伐として荒んだ雰囲気だったことが窺える。かけだしの拓郎もそういうアウェーの観客らを制圧しようという気負いもあったのだろう。そもそも歌う直前の拓郎のMCからして品がなくいただけない。メロディーだけをとりあげると、決しておちゃらけたものではなく、ペーソスのあるいいメロディーであると思う。そういう不幸な状況も岡本おさみの印象には悪く作用したのかもしれない。

   とはいえ最初からつまづいた二人が、こうして末永く幾多の作品をものにしていくのだから、まさにこれは音楽の神様のなせる技としか考えられない。この続きは「花嫁になる君に」で。

 さてタバコだ。「昔、拓郎さんがジーンズのポケットからくしゃくしゃのハイライト出して吸うのに憧れたんですよ」と語る明石家さんま。吉田拓郎=ハイライトというイメージが一般的に鮮烈に焼き付いていたことを示している。そのさんまに「最近身体が弱くなったんでマイルドセブンに変えました。」とミモふたもない答えで悲しませたのが、87年。89年ツアーではその時のことをモチーフに喫煙家にエールを送る「ハイライト」の後日談を歌った。
 しかし、92年のアローンツアーの「続ハイライト」では、突如「禁煙」を宣言。「君らも見習って何かをやめなさい」と歌い驚かせた。そのまま禁煙は続いたようだが、95年の外人ツアーの直後から喫煙が再開したとラジオで語っていた。
 そして2003年の忌まわしき「ポン」に至る。翌2004年のツアーのコンサート開始前のアナウンスで「喫煙場所の指定のご案内」につづいて「ちなみに僕は昨年煙草をやめました、これを機会に皆さんもタバコを止められることをお勧めします」は忘れられない。翌2005年のアナウンスでは、喫煙場所の案内に際して「僕が昨年あんなに言ったのにまだタバコが止められない方は」と続いていて笑った。
 歌う方も聴く方も「癌になっても知らないからと・・・」という歌詞をどこか他人事のように思っていた時代から、身に詰まされるように聴かざるを得なくなるくらいの時間が流れたのだ。
 その岡本おさみとの共作の旅路も、数多くの名曲・神曲残して、2015年に終わった。悲しいってなんてもんじゃない。しかし、岡本氏との初共作というこの歴史的作品は、そのままその後の年月という歴史を垣間見せるかのように生きつづけている。

2020.1.8