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ふざけんなよ

1985年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
シングル「ふざけんなよ」/アルバム「俺が愛した馬鹿」

女子高生が教えてくれた

 恥ずかしい話が、2015年になって名倉七海という女の子のカバーを聴いて、この作品のカタチというものが初めてわかった。ああ実にいい作品だったんだ。すまん。それだけどうしても原曲がしっくりと入り込んでこなかった。
 いきなり切り込んでくるようなイントロに、性急に進んでいく歌と演奏。拓郎得意のハードな“怒りもの”シリーズ。「やさしさ売る奴出しゃばるなよ」「愛に飢えた時、甘えるなよ」とたたみかけ、「ふざけんなよ」「ふざんけんなよ」と返す刀でバッタバッタと斬っていく。こういう作品こそ本来、望んでいたもののはずだったのに、なぜか響かなかった。

 自分の不明を棚に上げて考えると、やはりコンピュータによる打ち込みだからか、演奏が平板で微妙な空虚感が漂う。「こしらえました」感とでもいうか。 バンドであれば、ドラムとバトルし、ギターと競いあいながら、ボーカルと演奏がワイルドになっていっただろうことが予想できる。そういうラフで熱い(厚い)仕上げこそがこの作品への正しい処遇だったのではないかと思う。
 もうひとつは、発表時期の問題だ。拓郎引退が囁かれたつま恋85が目前での発表であった。聴き手の方にも「もう拓郎は降りて行くのだ」という、どこか「重たい終末感」があった。例えば前年には名曲「ペニーレインでバーボン」を亡き者にするような「ペニーレインへは行かない」」という象徴的な離脱ソングを発表したり、どこか沈痛な空気が漂っていた。そんな時に、いまさらこんな熱い歌詞を歌われても・・・と言うひねくれた心情があった。自分だけかもしれないが。
 名倉七海のカバーは、特段、才気あふれるほどのものではないが、あの当時のコンピュータ打ち込みの空虚感や終末観という当時のシガラミの一切をとっぱらって、この歌を作品として再確認する機会をくれた。
 たたみかける怒りの激しさとともに、「おいら話せない、誰にも話さない」「小さな勇気をひとつだけ胸の中にしまってあるから」という繊細なフレーズ。この「小さな勇気」は、同時期に拓郎が作詞した「オールトゥギャザーナウ」の「今こそその手に小さな勇気を持て」とシンクロする。吉田拓郎は、あの時「小さな勇気」を持って、どこかへ行こうとしていたのだ。
 ところでこの作品は近藤真彦のドラマの主題歌であり、もしかするとマッチへの提供曲になる予定だったという話もある。提供曲は、それから3年後に「ああグッと」で実現する。ここでジャニーズ事務所に対して打った楔が、のちのち「LOVELOVEあいしてる」に向かう大きな足掛かりになったのだ・・・と思う。

2016.1/17