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冬の雨

1989年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「ひまわり」/DVD「89 TAKURO YOSHIDA in BIG EGG」

体低音のロック、ここにあり

 この「冬の雨」のみならず「冬」が舞台の作品は結構ある。すぐに思いつくだけで「雪」「外は白い雪の夜」「ありふれた街に雪が降る」「ふゆがきた」「水無川」等々いろいろ浮かぶ。これらの作品の中でいちばん「寒さ」を感じるのが、この「冬の雨」だと思う(あくまで消費者の感想です)。この作品は、寒い。身も心も寂寥感漂う寒さを感じる。
 しかし、だから作品がお粗末というわけではない。地味で寒い作品でテンションは低いが、音楽作品としてのクオリティは高い。ついでに、独断だが、アルバム「ひまわり」は、神とか天使とか、どこかに行ってしまいそうな謎の作品群を、この「冬の雨」と「その人は坂を降りて」が、普通のアルバムに引き戻している気がする。つまりは、どこかに飛んでいきそうな「ひまわり」「約束」等の難曲を、陰性の「冬の雨」と陽性の「その人は坂を降りて」がそれぞれでしっかり捕まえている構造だと思う。
 熟練を感じさせるメロディー展開。機械的に正確なリズムとメロディーが、互いにカッチリと組み合って一糸乱れず淡々と進んでいく。それはそれでこの作品では小気味よい。そのうえに全体が低体温で非印象的なオーラを出しているのでサラリと聴き流してしまうが、詞にも丹精がこめられている。
 「雪の空を見上げると俺は白い風になる」、これは「マラソン」の冬バージョンかと思うような切ないつぶやき。「静けさが扉を開けて振り返るなと囁いた」という見事な比喩。「人間は失うものも自分の心で演じるさ」という救いなき諦観。
 しかし主人公は、この冬の景色の中で果てるのではなく、「遥か大地を駆け巡る」と次の場所を思い描いて出発しようとしていることがうかがえる。意外にもポジティブな締めくくりを感じさせる。
 この不思議な雰囲気は、寒く低いテンションだからこそ描けること、そして、伝えられることもあるということか。こんな低体温のロックをカッコよく歌えるのは、やはり御大しかおるまい。
 寒い、低体温とさんざん言ったものの、あの東京ドームのステージで、「外は白い雪の夜」に頼らずに、淡々とこの歌を歌ってみせた勇気・・・というか覚悟。それこそが一番熱いのではないかと思ったりする。

2016.1/17