フキの唄
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「午前中に・・・」/アルバム「18時開演」
フキもタケノコも信心から
「フキの唄」というタイトルを初めて知ったとき、ファンの皆様のご感想はいかがであったろうか。御大を「神様」と崇めるファンは、古代ローマ人のように膝を地面について天を仰ぎ「ああ、神よ、あなたは一体何をなさりたいのだっ!?」と悲痛な叫びをあげたに違いない。少なくとも「とほほ」の嵐がファンの間を吹き荒れたことに間違いはなかろう。私もその一人だ。
そんな中で「これはまた面白い曲をお作りになった」と泰然としていられたアナタ。アナタこそ最強のファンだと思うが・・いたのか?、そういう人。
もともと拓郎は「セロリ」が一番好きな食べ物であると公言していた(79年3月の朝日新聞インタビューより)。私はセロリがあまり好きではなかったが、この記事のおかげで食べられるようになった。バーボンを飲みながらセロリと砂肝のニンニクの醤油炒めを食べる。ハタ目には、ただの飲んだくれかもしれないが、本人としては、もはや聖なる儀式の挙行である。しかし、たぶん「セロリ」は、SMAPの唄になってしまったので歌のテーマからは外されのだろう。
もちろんフキも相当に好きだったことは確かだ。デビュー当時の石野真子が拓郎のラジオのゲストに来たとき、八重歯の石野真子に対してイキナリ「キミその歯ではフキを食べると歯に挟まって大変でしょう」と尋ねていた。戸惑っていた石野真子は、フキなんて食べてなかったのではないかと推測する。
さらにこの作品では「茎だけでなく葉っぱもとても美味しくて」という深いこだわり・・・そこまで歌詞にする必要はあったのかという点は置いといて、深い愛を感じさせる。
というわけで「フキ」のインパクトがかなり強いが、作品では常に自然とともにあった、貧しくも美しかった日本の暮らしが、ていねいに描写されている。シンプルなメロディーと確かで温かな演奏がまた心を癒してくれる。昔日の日本の風景の懐古を経ながら、しかし、たどり着くこの歌の核心は、「何よりも平和が大切でありました」「何事も求めすぎずおだやかに」という点にある。
好戦的で戦う男の象徴のように担ぎ上げられてきた拓郎だが、その本質には、おだやかな平和を願う心根が息づいていることが、この音楽を通じて静か浮き彫りにされている。そこにこの唄の命がある。・・と私は思うよ。
そう、冒頭の神様への「何をなさりたいのだ?」の問いかけに対しては、神様は、金満な列強国を目指そうと言うこの国に対して、「求めすぎない、おだやかな平和こそ大切なのだ」というお告げをフキとタケノコを振りながら御教導くださっているのだと思う。ありがたく拝聴したい。
2015.10/13