抱きたい
作詞 吉田拓郎 作曲 加藤和彦
アルバム「俺が愛した馬鹿」/DVD「90 日本武道館コンサート」
名作よ、不幸のスパイラルを脱出せよ
85年のアルバム「俺が愛した馬鹿」のトップを飾るこの作品は、作詞が吉田拓郎で、作曲が加藤和彦という異例なコンビネーション。「男と女はすべてを求めるでなく~男と女は何かを争うでなく~そして一緒に暮らせればそれでいい」というフレーズでありテーマが印象的だ。当時、拓郎はこれが自分の理想の男女関係なんだと語っていた。二度の離婚経験と三度目の結婚が見え始めた心境が、吉田拓郎に書かせた含蓄ある言葉である。
また加藤和彦のメロディーがシンプルながら洒落ている。拓郎節を見事に隠し味のように使いこなしている。
さて、この歌は、「郷ひろみ」への提供曲だったことは知る人ぞ知る。実際にレコーディングまでされたのだが、お蔵入りになった。理由は、この当時、松田聖子との結婚寸前の交際が破局したからだ。「今度生まれ変わったら一緒になろうねと・・・」という松田聖子の涙の破局会見は当時の大ニュースになった。そこにこの歌はあまりにも・・という政治的判断らしい。
ところがここで話は終わらない。松本隆は、郷ひろみと破局傷心した松田聖子を元気づけようと、男との別れを通じて自由に羽ばたく女性の応援歌として、御大(入江剣)作曲でシングル「幸せなんてほしくないわ」を準備し、発売告知もされていた。
しかし、破局後1年経たずして後に松田聖子は神田正輝と突如婚約をして世間を驚かせた。こりゃこれから結婚する人の作品としては不適切でしょうということで没になってしまったのだった。
しかも、その後、この「幸福なんてほしくないわ」は、あの酒井法子に提供されたのである。ひー。どこまで続く不幸のスパイラルなんだ。拓郎とその楽曲たちにとっては、いい迷惑でマンモス悲ピー。
さて本題に戻って、この「抱きたい」は、アルバムでは例の打ち込みのおかげでぎこちない印象があるが、後年、ライブによって生命を得たといってよい。特に90年の日本武道館公演では、ノリノリのポップな楽曲としてアンコールで演奏され、元オフコースの松尾一彦と清水仁らと「I wana hold you!」と楽しそうにコーラスパートをリフレインして歌っている姿が窺える。これこそが本来の姿ではないか。この作品の本当の居場所を見つけた思いがする。
今度生まれた変わったら、他人に提供などせずに自分ひとりで歌おうね・・・と言いたい。
2015.11/9