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チークを踊ろう

1976年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
シングル「たえこMY LOVE」

御大のポップな才能の結晶ここにあり

 もともとは1973年、バッドボーイズ(元オフコースの清水仁が在籍していたビートルズのフォロワーズバンド)への提供曲だったが、76年のシングル「たえこMYLOVE」のB面として本人歌唱がリリースされた。当時は、それなりにファンに衝撃を与えたものだ。拓郎が甘い声で「囁いてみようかな 可愛い君が好きさ」などとチャラ男になって歌うこの作品。
 「イメージの詩」で人生が変わり「人間なんて」に命を賭けた硬派なフォーク系ファンたちには「何じゃこりゃあああ」という驚きとともに怒りが湧きあがった。「拓郎は堕落した」などと批判もされていた。今でいうと「拓郎終了」という感じか。事実、この作品のあたりから、篠島で復活するまでの3年間は社長業に忙殺されることとあいまって、存在感が薄くなる「第一次冬の時代」を迎える。当時、私も「なんだかなぁ」と思っていた。しかし、それから今に至るまで、この作品は聴くたびに自分の中での評価がぐんぐんアップしていった。
 実は、この作品にこそ、吉田拓郎のポップな音楽的才能、天性のアイドル性が漲っていると確信する。今では、吉田拓郎の才能と魅力はこの一曲に凝集していると言い切りたい。卓抜した見事なメロディーラインは、聴く人の心を自然にウキウキと弾ませる。批判を受けた声の甘さは、拓郎の歌の上手さ、豊かな表現力に支えられていることがわかってくる。
 フォークなどとはまったく異質の、高田渡にも加川良にも届かない世界に到達している音楽家&アイドルとしての拓郎。この作品は、例えば、LOVE2の頃にキンキとかに伝授して、スタンダードとして若者に歌い継いでほしかった。
 もう一点、この作品の魅力を支えているのは石川鷹彦のアレンジだ。石川鷹彦はフォーク・ソングの代名詞のように言われるが、星屑がきらめくような、この派手なキラ系アレンジは秀逸だ。星の渦の中で踊りたくなるような演奏世界を創り上げている。
 中学生だった私は、この作品で初めて「チーク」という言葉を知り、チークダンスというのは、男女が頬を寄せて、この曲と同じ軽快なリズムで踊るものだと思っていた。そりゃ社交ダンスだって。なので身近な小中学生が、この作品を聴こうとしているときには、オトナとして「少年よ、この曲はチークではない」と親切に教えてあげたいものである。って、いねぇよ、そんな子ども。ともかく、この作品に自然と心と身体がウキウキ揺れる.この感じを何より大切にしたい。

2015.9/23