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チェックインブルース

1983年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「情熱」

自堕落なれど音楽は輝けり

 小品ながら陽気でパワフルなロックは、王様バンドの真骨頂のひとつだ。このバンドの凄さは、拓郎のボーカルとバンドがひとつの「塊(かたまり)」になっているところだと思う。それも拓郎のボーカルが威力をそこなわないままに演奏と一体になっているところだ。
 それまでの作品は、拓郎のボーカルの存在感が飛びぬけて傑出しているだけに、どちらかというと演奏とボーカルの境界がくっきりとした作品が多かった気がする。それが、王様バンドの時は、まるで身体をきちんと採寸し仕立てたオーダメイドの服をまとったような一体さがあって、どこまでもボーカルを引き立てながら寄り添い遂げる斬新なバンドだった。その小さな結晶のようなこの作品だ。

・・・と今なら言えるが、当時この作品への思いは複雑だった。原因は歌詞だ。何度も言うようにこのアルバム「情熱」は、全作詞を拓郎がおこない、そこには、森下愛子とのスキャンダラスな恋愛と拓郎自ら豪語する「自堕落」な空気がムンムンと満ちている。吉田拓郎のことを人生の師と仰ぎ、師のご託宣を日々待って生きていたようなファンとっては、裏切られたような悲しく厳しい作品たちであった。
 特にこの作品は凄い。「他のヤツになんか渡しはしないぜ!」「MOTELはもうすぐさ、エンジンが燃えるぜ!」「着いたら激ぇしく 抱いてあげるからぁぁぁ」・・凄い詞を書くもんだ御大。何のひねりもない「さぁ、ヤるぞ!!」の豪直球だ。拓郎はよく小田和正のYES/NOの「君を抱いていいのぉぉぉ」を揶揄するが、アナタの詞の方がすごいですから。
 ともかく「なんだよ拓郎コレは・・・(T_T)」・・師と仰ぐファンにはある種の厳しい試練のような作品だった。私見だが、このトホホ感は拓郎のせいだけでなくファン気質にも起因したんだと思う。自分も含めて拓郎ファンの男性をたくさん見たが、そもそも、こんなふうに「女子をかっさらってMOTELへファイヤー!!」と暴走できるようなヤツは拓郎ファンには皆無である。そういうことができない、かわいそうな男達の集まりが男性拓郎ファンであると断言してもよい。あのな。怒られるぞ。
 というわけで パワフルでご機嫌な音楽の塊にもかかわらず、いまいち評価をされずこの曲は置かれていた。それが、やがてスキャンダラスで自堕落な路線も終了し、7年間の月日を経て、この作品は突然復活する。1988年の東京ドーム公演の ぬぅあんとオープニング一曲目に登場したのだった。拓郎にとってお気に入りの一曲であったことが窺える。鎌田夫妻らのバンドが良くないというわけでは断じてないが、全体にプレハブ住宅ようなインパクトのない歌唱と演奏だった・・というのが私の率直な印象だ。

 しみじみ思い返すと、あの時、不満だったスキャンダラスで自堕落な毒気が、王様バンドというエンジンを燃え立たせて、あの作品をかくも魅力的なものにしていたのだなぁと今更ながら思う。

2015.9/23