カンパリソーダとフライドポテト
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
シングル「カンパリソーダとフライドポテト」/アルバム「大いなる人」
嵐の中の二人の旅立ち
1977年発売のアルバム「大いなる人」からシングルカットされた当時の勝負曲だった。しかし勝負曲にしてはあまりに哀愁に満ちている。「カンパリソーダ」は「都会の女」の象徴。拓郎は、「カンパリソーダ」について問われるとユーミンがよく呑んでいる食前酒と説明をしていた。「フライドポテト」は「イモ男・田舎者」の象徴とのことだ。当時は明言こそしなかったが、この歌は、この年結婚した浅田美代子との夫婦の旅立ちの歌である。後に明石家さんまが「浅田美代子が「あたしとの生活を『砂の家』なんて歌にしたのよ」と怒っていたとネタにしていたことから発覚した。浅田美代子も拓郎から観れば都会の女だ。コントラストのハッキリした二人ということか。
悲愁の向かい風の中を進んでいく二人のラブストーリーは詞・曲とも傑作だ。特に鈴木茂のアレンジが無敵艦隊のようにアシストしている。イントロの「ケーナ」の笛の切ない響き。これでもうこの作品はキマリだ。拓郎はこの作品について「鈴木茂はアレンジの時、詞を見せてくれと言って、丹念に詞を読んでからアレンジしてくれた。嬉しかった。」と絶賛していた。ということは松任谷正隆は読まんのだな。そういう話ではないか。
今でこそスーパースターと超アイドルの結婚といこうとで華やかで明るいイメージがあるが、当時この二人を暖かく祝福した人というのは意外と少なかったはずだ。世間やマスコミは、身勝手な結婚だとバッシングし、浅田美代子のファンは拓郎に怒っており、拓郎ファンの多くは複雑な気持ちを抱いていた気がする。
しかしも結婚当時はフォーライフの経営危機の責任を一人で背負った時期でもある。おそらく二人は四面楚歌に近い船出だったのかもしれない。夫婦の船出をこんな悲愁に満ちた歌で描かなくてはならない、拓郎の当時の心情が偲ばれる。
しかし、悲しみに沈み込むことなく、そんな逆風の中を、力強く立ち上がって行かんとする二人の歌でもある。「壊される前に二人で旅立て 昔の友より明日の二人」「崩れかけた砂の家で木の葉のように舞うだけまえばいい」「朝陽を見たかい嵐の中にも懐かしい歌が聞こえてくるだろう」これらの部分に窺えるようにこの作品には静かな勇気と覚悟が漲っていることに気づく。さまざまな障害を超えて旅立とうとするすべての恋人たちへの応援歌となるべき傑作だ。
ステージでは、1978年の「大いなる人」コンサートツアーで最初の3,4本で歌われたのを最後にライブではずーっと封印である。この作品の今となっては切ない出自・来歴からなのか、それとも半音ずつ上がっていく歌なので結構難しいからなのではないかと思ったりもする。素晴らしい鈴木茂のアレンジだが、三番と四番の間に一瞬「東海林太郎の国境の町が流れる」と拓郎はウケていた。ちなみにアルバムとシングルはテイクが違う。僅かだが。
2015.12/12