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白夜

1988年
作詞 松本隆 作曲 吉田拓郎
 アルバム「ローリング30」/アルバム「18時開演」DVD「TAKURO YOSHIDA 2012」

どうやら生き残ったらしい俺達

 この作品は、かねてより評価は高かったものの、アルバムの中では比較的地味な位置づけだった気がする。松本隆が、自分の20代の終わりとともに、70年代との訣別をテーマに書いたと語っている。激動の70年代が静かにクローズしていく寂寥感と疲労感を松本隆と吉田拓郎がしっかり共有していることが窺える。
「みんな何処へ消えた古い親しい友よ」。70年代の盛大なお祭りが終わって、どうやら生き残ったらしい、数少ない人々。その中の二人どうしの生存確認でもあるかのようだ。
 「ローリング30」の原曲は、松任谷正隆のキーボードと拓郎のギターという二人だけで演奏されている。ホントは、ハーモニカで常富喜雄さんが入っているのだが、うっかり忘れたことにする。申し訳ない。シンプルだが松任谷正隆の表情豊かな演奏。そして拓郎のボーカルの質感が素晴らしいが、中でもマニアックなツボは、3番の「世代なんか嘘さ 夢と笑えホロ苦い若さ」の「若さ」の後の少しむせるような拓郎の息遣いが魅力的だ。 ステージでは、79年の春のツアーでは、群馬、大阪など何箇所かで弾き語りで演奏されたくらいで、ライブで大きくフィチャーされたことはなかった。
 それが突然に、2009年の最後の全国コンサートツアーの場面で、ビッグバンドにより演奏された。この時の演奏と歌は、ライブアルバム「18時開演」に残っているとおり出色であった。管弦のイントロのおごそかな美しさとともに「風が凪いだ」と入ってくる拓郎の唄声の繊細なこと。まるで壊れ物を扱うように、ていねいに、ていねいに奏でられ歌われる。作品全体に荘厳な空気すら立ち込めるような出色さであり決定版といいたいが、原曲の松任谷・拓郎の二人で作り上げたバージョンも素晴らしく、甲乙つけがたい。甲乙つけるよりもこういう素晴らしいバージョンが二つもあることを心から祝うべきか。
 松本隆もこのツアーで「白夜」が歌われたことに驚き、こんなことだったら拓郎に頭下げてでもチケット貰っていくべきだったとラジオのインタビューで悔しそうに語っていた。大作詞家には失礼だが、日ごろ、こんなに貴殿の詞を大切に歌っているんだから、毎回足を運ぶように心掛けた方がいいのではないのか。
 突然だが 「ローリング30」の原曲の「みんな、みんな」が「めんな、めんな」に聴こえてしまうのだが、私だけだろうか。 名曲に遜色はないが。

2015.10/13