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僕達のラプソディ

1998年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「Hawaiian Rhapsody」/シングル「心の破片」

t.yの背中をどこまでも一緒に追いかけて行きましょう

 時まさにLOVE2の蜜月=バブルの真っ只中のアルバム「Hawaiian Rhapsody」。ほぼ他のアーティストに丸投げされた作品群。しかも、この作品は、作詞こそ拓郎本人なれど、作曲は武部聡志、吉田建が並んで名を連ねている。私のような頑迷古老のファンからすれば、本来「なんじゃこりゃあ」と怒り心頭なところだ。
 しかし、このようなハンデのある作品(おいおい)にもかかわらず、私はここに断言しなくてはならない。この「僕達のラプソディ」は名曲だ。今でも繰り返し聴くし、うっかりすると泣きそうになったりもする。ボケただけなのか、自分。
 拓郎本人のてらいのない心情を爽やかに綴った詞。それにフィットした爽快でポップなメロディー。そして何より本人の、ウキウキのびやかな歌いっぷりがたまらない。
 この歌を聴いていると「ああ、抜けたなぁ」と深い感慨が湧き上がってくる。80年代後半から続いた長かった「冬の時代」をスカっと抜けた清々しい拓郎を感じる。それまで、吉田拓郎にカリスマたることを過剰期待するコアなファンや世間とのいつ終わるともない消耗戦が続いていた。やがて拓郎が、思い通りにならないと感じたファンの多くは背を向けて去り、世間は、世間におもねらない拓郎を過去の人として葬り去ろうとしていた。まさに拓郎という存在のフェイドアウトが静かに進んでいた時期。拓郎は、ひたすら音楽に取り組みながら、極北の暗いトンネルを歩き続けていたし、残ったファンもともにその不安の闇をさまよっていた。
 その暗いトンネルを抜けられたのは、ひとつにはLOVE2のチカラに違いない。そこに果敢に飛び込んだ拓郎の勇気あってのことだが。拓郎は、音楽家であると同時に、やはりアイドルであり、スターでなくてはならないのだと思う。吉田拓郎は、高田渡であってはならないのだ。やはりメジャーなスターとして向こうを張らなくてはならない。この作品は、スターとしての自由を手にしたのびやかな凱歌のように聴こえる。
 ご隠居様のように引きこもっていた逗子から、東京に帰ってきた拓郎は、麻布や仙台坂のあたりを風のように闊歩する。「ペニーレイン」を離れて以来、実に久々に行きつけのランドマークができる。実際には、志村けんさんにばかり逢うが。あ、吉田建の時もあったが。

    涙ぐみそうになるのは、ここのフレーズだ。

    「夢までの道を最後まで一緒にさまよっていきましょう」
    「これからの日々も最後まで一緒に抱きしめていきましょう」
    「夕暮れの空をどこまでも一緒に追いかけていきましょう」

 直接には、たぶん奥さんの愛子さんあるいは側近の親しい人々に向けて書かれたであろうフレーズだろうが、心が切なく疼いてしまう。 ファンとしては、勝手と知りつつ、拓郎とともに最後まで彷徨い、夕焼けをどこまでも追いかけて行く、そんな自分をそこに投影してしまう。御大とともに生きて来て、これからも生きて行くという、「幸福な共感」。そんなファンの思い込み&思い入れをも、黙ってこの作品は受け入れてくれているような気がする。

2015.9/27