uramado-top

僕の道

2012年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「午後の天気」/DVD+CD「TAKURO YOSHIDA 2012」/DVD+CD「TAKURO YOSHIDA 2014」

輝きて続くどこにでもある家路

 2012年6月20日発売「午後の天気」は、この曲から始まる。オープニングのこの曲こそこのアルバムのテーマ曲、代表曲、勝負曲といっていいだろう。どこか懐かしくも新しい・・この曲が一番最後に出来た曲で難産で苦労したと拓郎本人が語っていた。しかし、シンプルでおだやかな清流のように流れていくこの曲に苦心や苦労のアトは全く窺えない。ああ、このままずっとこの川の流れに身を任せていたいと思う。頭の中ではごく自然にこのメロディーとフレーズが心地よく回りつづける。
 アルバムで言うと1972年「元気です」に針を落とした時のような、若く青い清々しい空気感と重なる。あれは、決して歌手やミュージシャンが若かったからそういう音が出来たのではないのだと、この曲とこの歌そしてこの演奏を聴いて思い知る。
 聴くなりイントロに捕まえられる。まどらかなギターとキーボードがひとつの固まりになったような心地よいサウンドが聴き手をいきなり抱きしめる。文句ばかりですまんがこの質感はオリジナルCDだけでライブでは十分に再現されていない。オリジナルのどこか懐かしくしかし清々しい明るさに満ち溢れているイントロとサウンドこそベストか。このサウンドに包まれながら気持ちよくなだらかに続いていく音楽のストリームがある。
 「この道が大好きだから この道を行くんだよ」と歌い上げる「僕の道」とは「音楽の道」あるいは「人生の道」に違いないと確信して聴いていた。「音楽・人生ロードもの」の作品としてこの作品を聴いてきた。
 しかし、後に御大は、公式の「つぶやき」で、この道は「家路」であると明言した。「家路」か。「家路」なのか。少なくとも私は考えてもみなかった。「家へ帰ろう」と同じテーマを歌っていることになる。「家路」として聴き直すと、この作品はまた違った色の作品となる。家が大好きだった少年が家を出て放浪の末「家」を見つける。
 岡本おさみの作詞の名曲「家族」も同じテーマだが、どこかに家に捕まえられてしまったという悲壮感が滲み出ている。しかし、この作品は違う。心がつらい時、涙に濡れるとき、戸惑う時もこの家路を希望と夢をもって進んでいくという。「家路」は大好きな輝ける道としていつも自分の前にある。下種勘だが、アルバム「こんにちわ」で御大は明るい日常というテーマを宣した。そして近作「午前中に・・・」も日常が歌われる。家そしてそこで繰り広げられるありふれた日常。誰しも決して完璧な日常であるわけではないだろう。私の日常もいろいろなものが欠けた不完成なものだ。しかしそうであっても、家と日常こそが人間にとって何にも変えがたいかけがえのないものなのだという御大の思いがあるような気がしてならない。あちこち放浪したけれど結局「青い鳥」は家にいましたというあの話を思い浮かべる。そんな「家路」を「家へ帰ろう」はしみじみと、この作品は明るく誇らしさを湛えて高らかに歌う。もともと「おうちっ子」でありながら幾多の荒野を旅してきた人間だからこそ作り得た歌だろう。

2016.1/27