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慕情

2011年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「午後の天気」/DVD「LIVE2012」/「LIVE2014」

石山、「慕情」歌うってよ

 2011年4月のNHK時代劇「新撰組血風録」の主題歌として配信され、2012年のアルバム「午後の天気」にも収録された。重厚な時代劇ドラマの主題歌であるせいか、演奏に壮大感があり大作の雰囲気が漂う。
 しかし、なんといっても特筆すべきは拓郎のボーカルだ。声に芯と伸びがあり、何より少し鼻にかかった甘く、切ない色香が溢れる。拓郎本人も、敢えてトレーニングして作り上げたという出色のボーカルにはシビれた。あまりにシビれすぎて、トレーニングしてできるんならなぜ今までやらなかったのだ?という根本的疑問を忘れてしまいそうだ。
 拓郎は新撰組については相当詳しいようで、映画「幕末青春グラフィティRONIN」での高杉晋作を演じて以来、「新撰組始末記」など幕末関係本を読み漁ったようだ。「うの『ひと夏』by高杉」もその成果物だ。拓郎がラジオ番組内で敢えて解説したのはこの歌のテーマは「同性愛」ということだった。新撰組に男同士の愛憎にまみれた同性愛を読み取り、その切り口でこの詞を書いたらしい。それにしても男同士と思って読むとすげー詞だ。「遠くを見つめているあなたが好き」「あなたとすれ違うだけでふるえてしまう」「あなたの空気を 思ってみるだけで胸が張り裂けそう」「あなたがいなくなればこの世の終わり」・・・・・・どんだけ愛の直球を投げ込むんだ拓郎。
 この詞は、誰もが思うように、ファンの吉田拓郎に対する深く熱い思いと寸分違わず重なってくる。ここでは同性愛にとどまらず男性も女性もない。もっといえばすべてのスターに対する熱いファンの心理だろう。ひとつ思うのは、拓郎が、ここまでファンの思いとシンクロするような熱情的な詞を書けたということだ。このことは、普段はファンことなんか知らん、わからん、とうそぶいているが、拓郎自身が自分の熱狂的ファンが自分のことをどう思っているかについて十分に理解していることの証左だ。
 ただファンの狂おしい思いをわかっていることと、それを受け入れることは全然別だ。たぶん大多数のスターは、ファンの狂おしい思いを、巧みに受け入れたフリをするのに長けているのだ。拓郎は、そんな虚飾を嫌って、ファンの狂おしい思いを理解しながらも、きちんと線を引き距離を保つ。なので昔から拓郎はファンに対して冷たいなどと誤解されることもあるのだろう。というわけで、わかっていながら、そうやって冷たくする、あなぁたぁが好きぃぃ・・ってイカれてるのは自分か。
 2014年の11月、ベーシストの石山恵三のライブで、意外にも石山氏は、猫の時代の拓郎作品ではなくこの作品を選び熱唱した。しかもバンドは、島村英二、エルトン永田という豪華布陣。残念ながらボーカルはヘロヘロで、「さぁみなさんもご一緒に」とか言われても、歌えないだろう普通。しかし、そこには気骨ある愛の直球があり心が揺さぶられる思いがした。この作品の正しい取扱い方がそこ示されていた気がする。ファンをやっていれば、いろいろ不満も不安も出てくるが、そんなファン魂をメンテするためにも、時々この歌を思い出そうと思う。

2015.4/18