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歩こうね

2009年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「午前中に・・・」/アルバム「18時開演」/DVD「TAKURO YOSHIDA LIVE2012」

歩け、歩け、時は流れても

 2009年のアルバム「午前中に・・・」に収められ、同年の最終ツアーでも演奏されたことは記憶に新しい。スロー&ステディにゆったりと歌われるこの歌は印象に残った。 拓郎には70年代前半に「歩け歩け」という作品がある。かまやつひろしに提供されたものの、残念ながら本人歌唱は公式音源とならなかったが。「歩け歩け太陽の道を汗が汗が光る 焼けた肌 歩け歩け夢を掴むまで」とあるように苦難を乗り越えてひたすら進めという歌だ。曲調からもせかせかと早足で未来に進んでいく拓郎の姿が浮かぶ。ある意味拓郎らしい歌だ。しかし、この「歩こうね」はその様相が一変する。ゆったりとした時間の中で拓郎は「歩けるかい?進めるかい?」と何度も問いかける。そこには「歩け歩け」から40年という歳月の流れ、もっとはっきり言うと「老い」というものを感じ、ファンは少し戸惑う。
 しかしアルバム「午前中に・・・」のインタビューで拓郎はこう語る。
 「『歩こうね』が出来た時にこのアルバムは悪くないという確信が持てた。こういう歌を自分で書けるんだなというのがあって、こういうことをやれる自分がコンデション的にいいな」
 この曲は、拓郎にとってかなり大切なポジションの曲であったことがわかる。そういうことからすると拓郎はマイナスとしての「老い」を歌おうとしたのではないと思う。「老い」からは逃げずに、一歩一歩を大切に踏みしめながら、自分の足で思いを込めて進むことを歌いたかったのではないか。エイベックスへの移籍の前後の頃より、拓郎の口から「あと何枚のアルバム」「あと何回のライブ」という言葉が出るようになった。悲しく切ないが現実だ。拓郎とともに過ごしてきた私たちファンの多くも程度の差こそあれそういう時を生きている。一歩一歩を身体で図りながら踏みしめて進む。そういうこれからの歌だと思いたい。
 なお、この曲は言うまでもないが「ピアノ」だ。決して派手な自己主張をしていないので目立たないが、丹念に奏でられるピアノとともにあることがわかる。一歩一歩踏みしめて進む拓郎をある時は少し先から先導し、ある時はともに歩調を合わせ、ある時はその足跡をやさしくトレースする、そんな一音一音に心の込められた寄り添うような見事なピアノだ。拓郎の歌声に伴って歩くようだ。「伴奏」とはよく言ったものだと思う。この歌とピアノにぴったりとあてはまる。

2015.9/21