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青空

1991年
作詞 石原信一 作曲 吉田拓郎       
アルバム「detente」

空を見上げる男たちの繊細なる仕事

 1991年アルバム「detente」に収録されているこの曲はシングルカットこそされなかったが、このアルバムの中心曲としてテレビ番組のテーマソングにも使用された。
 1990年代前半は、拓郎いわく「彷徨(さまよ)っている時代」だ。拓郎自身、これからどこへ行くのかが見えず、観客動員にも陰りが見え、世間は拓郎を過去の人として片付けようとしていて、「吉田拓郎」という存在が少しずつつフェイドアウトしていくような、ファンにとってもたぶん本人にも辛い「冬の時代」だった。95年に外人バンドとコラボし96年LOVE2が始まるまで、この「彷徨える冬の時代」は続く。
 そんな中で発表された作品だが、重要なことはその中にあっても作品のクオリティは全く落ちていないところだ。私は「90年代に駄作なし」と確信をもって断言してきた。異論反論もあったが、もうそんな子とは遊ばない。・・子どもか。すまん、そういう話ではなく、吉田拓郎は生粋の音楽家なのだと思う。
 そんな彷徨いの中にありながら、例えば、この「青空」という作品の美しさといったらない。メロディー、歌い方、演奏、すべてが、繊細な美術品のような素晴らしさを体現している。前作「176.5」「ひまわり」等の「打ち込み」中心から「手作り」への方針転換があったようだが、この作品の美しさは、ただの方法論の転換だけからは帰結できない。
 静かで美しいメロディー、そして拓郎はこんなにも声がキレイで歌がうまかったのかと驚くような優しくデリケートな歌声。そして、壊れやすい作品をそーっと大切にラッピングするような12弦ギターの音色。
 特に間奏のブレイクが絶妙で素晴らしい。作品の繊細さを損なわないように、曲が走りすぎないように、全員が一瞬息を止め全てを見守る時間。ラッピングでいえば乱雑にならないように途中で手をとめて慎重に確認してから、最後のラップにかかるようなそんな絶妙のブレイクの間合いだ。
 この作品、そしてこのアルバム全体は、拓郎が提案した「人が空を見上げる時の気分」がコンセプトになっている。それはジャケット写真の拓郎の姿にも現れている。石原信一のこの詞は、この年齢になると少し甘くてストレートすぎて気恥ずかしいところもある。しかし、この歌声と作品のパッケージで「青空 その下で ただ君を愛するために」と聴かされるとと、そうだよな、別に歳なんて関係ねぇよなと、この作品世界にとっぷりと浸ってしまうような説得力がある。

2015.4/13