uramado-top

あの娘を待ってる街角

1980年
作詞 岡本おさみ 作曲 吉田拓郎
アルバム「Shangri-La」

心弾む素敵な待ちぼうけ

 1980年の初の海外録音盤「SHANGRI-LA」で、岡本おさみはロサンゼルスまで同行して詞を書いていた。岡本おさみの股旅シリーズ海外編だ。しかし拓郎いわく「海外の詞を書かせると、岡本おさみはダメだなぁ。」ということでロスの現地で書いたたくさんの詞が没になったらしい。「フリスビーの唄」というのがあったそうだが、どんな詞なんだ。いずれにしてもこの曲は数少ない生き残りか。
 もうひとつのサプライズなポイントは、拓郎が長く恋い焦がれた「ザ・バンド」のガース・ハドソンが特別参加しアコーディオンとサックスを吹いていることだ。1974年にはザ・バンドとの共演寸前までいくほどご執心だった拓郎。ザ・バンドが「ラスト・ワルツ」のレコーディングに使用したこの「シャングリラスタジオ」でレコーディングすることだけでも感激なのに、いよいよバンド・メンバーの本人登場ということで相当舞い上がったようだ。
 作品としてもこの曲は小品ながら魅力的だ。メロディーもやさしく、調子がよく、のどかで心がウキウキはずむようだ。岡本おさみのこの詞は、「好きな人を待っている時の幸せな時間」を見事に表現している。拓郎もこのささやかな幸せをちゃんと理解していて、そんな気分を体現するような明るいメロディーをつけている。
 例えば「ふと口ずさむ遠い港町の歌 耳鳴りだろうか遠い霧笛聞こえたような」・・この、のっぺりとした言葉達が拓郎のメロディーによって実にウキウキと弾んで踊りだす。恋人を待ちこがれる小さな幸せと早るようなもどかしい心を音符で見事に表現している。曲の最後の「ロスアンジェルスならいいね」は妙にとってつけたような印象がなくもないが、この曲の全体の魅力のせいか、あまり気にならない。
 しかもサプライズ・ゲストのガース・ハドソンは、スタジオで演奏するとき、岡本おさみを呼び詞の意味を何度も確かめながら、この曲のためだけに二日間もスタジオを占拠したという。メロディーにも詞にもぴったりと寄り添うようなアコーディオンと間奏のサックスだ。決して顔見せや形だけではなく、きちんと仕事をこなしているところも感激する。ただ、この時のレコーディング会計スタッフ陣山さんによれば、ガース・ハドソンはこれだけのプレイで8000ドルもギャラを持って行ったと嘆いていたが。コストのかかった間奏を有難く拝聴しようではないか(笑)
 ともかく人を待ってるのどかな時間につい口ずさんでしまいたくなる一曲だ。拓郎のメロディメーカーの才が煌めく。

2015.10/31