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あなたを愛して

1977年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎
アルバム「大いなる人」

メッセージなんてなくても、もうどうでもいいんです

 1977年のBUZZへの提供曲だ。同年11月発表のアルバム「大いなる人」に本人歌唱が収録された。拓郎が、詞・曲ともに他の歌手に提供するのは珍しいことだ。盟友でもあり、同じ「のっぺり顔」仲間の東郷昌和だからだろうか。
 東郷昌和によると鈴木茂は顔のホリが深いために何にも考えていないくせに頭が良さそうに見える。拓郎と自分(東郷)は、のっぺり顔で何にも考えていないみたいに見えて大いに損をしているとのことだ。その深い思索の人のように見える鈴木茂のアレンジになるこの作品。
 この作品は、吉田拓郎のポップスのおおいなる天賦の才が見事に発揮されている逸品だ。メッセージも何もいらない、この痛快な作品に魂疼かずしてどうするという感じだ。アップダウンしながら弾んでいく、よく考えられたメロディー構成は心地よく、聴き手をあちこちに連れて行ってくれる。 確かにこれはもう「フォーク」ではない。だとしたら何だと考えるのも的はずれなくらい、作品がいきいきと踊っている。
 発表当時「唇まどろむシーサイドホテル」に痺れたものだ。「シーサイドホテル」という言葉の当時の新鮮な響きがたまらなかった。今じゃ海岸近くの国道を走ると紫のネオンとかに輝いてよく見かける。もちろん井上陽水の「リバーサイドホテル」なんかよりこっちの方が早い。何より向こうは「川」だがこちらは「海」だ。歌のスケールが違う。関係ないか。そしてこの「シーサイドホテル」のメロディーの乗せ方も抜群だ。口ずさむだけでウキウキしてくる。鈴木茂のアレンジもギターも実に軽快だ。クリアでどことなく品があって踊り弾むように爽快だ。
 BUZZのバージョンはアレンジが石川鷹彦だが、このアレンジもまたカッコイイ。石川鷹彦というとアコースティックなアレンジのイメージがあるが、アグレッシブで厚めのアレンジが多い。例えば、たえこMY LOVE/チークを踊ろうなど。
 拓郎のバージョンで唯一残念なのが、サビの部分♪あ~あ~離さないでぇ あ~あ~の部分。BUZZの場合は東郷昌和の得意の高音が炸裂する。しかし、拓郎はコーラスに任せ切ってしまう。いや、歌っているのかもしれないが、御大のピンのボーカルが聴き取れない。でもイイ。爽快感に支障はない。それでも、ついてくの手を離さないで。

2015.11/1