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秋時雨

2007年
作詞 岡本おさみ  作曲 吉田拓郎       
アルバム「歩道橋の上で」

不滅のコンビ、還暦越えて荒野を行く

コンサート・ツアーにしてもアルバム制作にしても無念な結果となった2007年。拓郎は制作中のアルバムの音源CD、ドキュメントDVD、エッセイ集を一種のメディアミックスな形でまとめて発表した「歩道橋の上で」。
 作品群は、一曲を除いてすべて岡本おさみとの共作になる。前回のアルバム「月夜のカヌー」から続く路線だ。スタートラインとなったのは、つま恋2006での二人の再会からだそうだ。つま恋を訪れた岡本おさみは自分の詞が今もって観客からの熱い支持を受けていることを確認し感激する。そんな岡本おさみに対して拓郎が「岡本さん新曲を作ろうよ」と語りかけた。拓郎は言う「僕にも彼にも新曲が必要だって話をしたの。60歳の今、自分たちの持っている言葉で作る新曲がね」(GOETHE 2007.1月号)。こうしてover60歳の歌を紡ぐ旅が始まった。
 この「秋時雨」は、詞にも曲にも派手さやドラマ展開はないものの、忘れじの人を思う大人の心が刻まれている。

   流れ星だと言うボクに こんな風に見上げれば首が痛くないわよと 君は寝ころび笑った

 さりげない情景を実にうまく切り取るもんだなぁ。二人の関係性とか年代とか人柄までもがこのわずか言葉にきちんと盛られている。また、こんなさりげない光景こそが、後に思い出して一番胸に残ることをきちんとわかっている。大人の歌だ。

   秋が冬に呼びかけて あの日の君を連れて来る

   秋が冬に呼びかけて 心が少し乱れてる 忘れたつもりの秋時雨

 心乱れる切ない思いを音符だけで見事に表現したような拓郎のリリカルなメロディー。詞にぴったりとハマる。拓郎と岡本の相性なのかしれない。拓郎自身もかつて「岡本さんの詞だと、パッとメロディーが浮かぶ」と言っていた。
 歌を邪魔しないように脇役に徹する演奏も切ない心情を描くようで沁みる。そして間奏になると演奏が石川鷹彦のギターをはじめ「切なさの爪痕」をサクリと残す。ちなみに、このバックメンバー(石川鷹彦、徳武弘文、島村英二、エルトン永田)は、78年に箱根ロックウェルスタジオで「ローリング30」を創ったメンバーだ。今回も、この「ほぼロックウェルなチーム」(石山恵三がいれば完璧なのだが)の大人達が大切につくりあげた作品であることが伝わってくる。

2015.4/13