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あいつの部屋には男がいる

1983年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎       
シングル「あいつの部屋には男がいる」/アルバム「マラソン」/アルバム「LIFE」

すれ違いの日々に生まれた色香溢れる作品

 1983年5月発売のアルバム「マラソン」のトップを飾り、またシングルカットもされた歌。しかも「あいつの部屋には男がいる」の「男」がデザイン・ロゴになっているというチカラの入れようだった。
 この意表を突くキャッチーなタイトル。電話口で身もだえする男の心情と光景をこんなにもドラマチックに切り取った詞は、他にあるまい。
 「こういうことってよくあるんです。相手の人に対して、なんで、こんなことするんだろうって悲しくなってね・・・でもオレもカミさんいるわけだからエラそうなこと言えないんだけど(笑)」と御大ご本人が語っていました。というわけでリアルな経験のようだ。
 悲しい状況を描いた詞ではあるけれど、メロディーは、軽快な疾走感があり、爽快な感じすらする。
 「ペニーレインでバーボン」のごとく言葉をリズムに乗せながらたたみかけていく感じも小気味よい。早口でありながら、歌声の表情も男の色香が溢れていて実に豊かだ。
 またテクノっぽいサウンドが当時は斬新だった。同時期の提供曲「僕笑っちゃいます」と印象が重なる。
 名作じゃないの!・・・と今なら自信をもって言えるが当時は違ったのよね・・・。
 人生の羅針盤として拓郎からのメッセージを期待していた、私のようなファンは不満だった。なんじゃこの痴話喧嘩みたいな歌は・・と冷ややかだった。
 実際、後に拓郎は、「これは、大好きな曲だったんだけど、いかんせん・・・」と悔しそうに語っていた。
 「こんな拓郎を聴きたいんじゃない!」という依怙地なファンが多数いて、対極には「おまえらの期待には絶対答えん」と頑として揺らがない拓郎がいる・・・私が勝手に名づけている「すれ違いの80年代」。音楽を音楽としてきちんと評価できない不幸な状況。この不幸に巻き込まれてしまった歌のひとつかもしれない。かつての依怙地だった自分を心から懺悔したい。・・・でも仕方ないか・・・どっちなんだ。
 そんな対立もおそらくノーサイドとなった今、拓郎の才気とともに味わいたい作品だ。遅いか。
 プロモーション・フイルムは貴重だ。拓郎の不良っぽい色香とバブルな匂いが漂う。意味深な砂浜の「AIKO LOVE」、渋谷マネージャーはじめ島村、青山、中西ら王様バンドメンバー謎の怪演。きっと撮影旅行の雰囲気が凄そうだ。南国に解き放たれた不良おじさんたち・・なんて感じが想像される。
 それにしてもシリアスの極地のような名曲「マラソン」とこの曲が同じアルバムに収録されて、しかもシングルになっているというのもよく考えると凄いことだ。それを拓郎のテキトーさと揶揄する人々もいるが、そこはそれ、拓郎の人間としての「ふり幅の大きさ」であると思いたい。いや、思う。

2015.4/10