uramado-top

あいつ

1980年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎       
シングル「あの娘といい気分」

B面に静かに眠るあいつに逢いに行く

 1980年2月から3月に録音された吉田拓郎にとっての初の海外録音アルバム「Shangri-la」。そこからシングルカットされた「あの娘といい気分」のB面を担う作品。アルバムに未収録ということで「流れる」「Voice」「隠恋慕」などと並ぶ「幻のB面シリーズ」に数えられるが、この作品は、あまり目立たず、ファンからも追憶されず、ホントに幻なってしまった感が強い。
 そもそもアルバム「Shangri-la」のレコーディングは、R&B少年だった拓郎としては、ブッカー・T・ジョーンズにブラック・ブラック・ミュージックの真髄のようなソウルを期待していたが、あまりに大人しくエリートっぽく期待外れだったと後に公言していた。
 ファンはファンで前年の篠島のイメージが消えず、もっとガンガン攻め込むような威勢のイイ歌を期待していたので、どこか肩すかしを食ったような違和感があったように思う。この辺が1980年最初のシングルのB面という晴れの席に座したにもかかわらず印象が薄い原因か。
 そういう背景事情は別にして、作品自体は味わい深いものだ。
 詞も拓郎の手になるが、魔性の女に振り回され命を絶つ男を追想するという、拓郎にしてはドラマ性のある珍しい詞だ。ステージで歌われたのは80年の春のツアーだけだが、その渋谷公会堂のMCで「男が男にホレる。そんな歌です。死んじゃったやつなんですけれど。」と、この作品を紹介していた。京都では、この男の葬儀の時の話までしている。Based on true story ということだ。
「あいつが死んでも彼女は泣くまい それが流行のゲームだと いつも言葉を荒立てて 俺は憎まれ役でも叫んだのに なぜ」と苛立つようなたたみかけには切なくもリアルさを感じる。無念な男を叱責するように決然としたメロディーと歌声で、ミディアムなロックナンバーに仕上がっている。小品ではあるけれど忘れてはならない。

2015.4/10