愛の絆を
作詞 岡本おさみ 作曲 吉田拓郎
アルバム「Shangri-la」/シングル「いつか夜の雨が」/アルバム「ONLY YOU」
海を超える”旅の宿”なバラード
1980年拓郎初のロサンゼルス録音アルバム「Shangri-la」に収められる。プロデューサーのブッカー・T・ジョーンズは、特にこの曲を気に入り、高く評価して、シングルカットを強く勧めたという。なるほどこの甘く美しいメロディーは、一級のラブソングとして、国境を越えてもおかしくない。メロディメーカーとしての拓郎の面目躍如だ。しかし、詞は、英語で歌えといわれて、拓郎は拒絶したようだ。「もうマッカーサーの時代じゃないんだぜ」と啖呵を切った拓郎が素晴らしい。やた
らロンドンだロスだと海外を行き来して、インターナショナルなイメージを盛りまくるインチキミュージシャンたちとは全く違うのだ。
さて、その詞。作詞の岡本おさみは、「『旅の宿』のような詞」を企図していたようだが、それはどうか?「旅の宿」の深みのある情感には及ばない気がする。
「濡れた髪をとかしたら僕の傍においで」「遠い国に二人で愛するために来た」「君身体が冷えてるよ もっとそばにおいで」「朝までの短い時間をしっかり確かめよう」。ちょっと気恥ずかしい詞だ。岡本おさみを思い浮かべて詞を読むと、ロマンティックというより「この○○オヤジっ!!」という心にもない言葉が浮かんでしまう。すまん、私だけか。しかし、この美しいメロディーと酒絶ちの成果物といわれるのびやかで甘美な歌声。これらによって見事なラブソングとして昇華されている。さすがソリスト、作曲家、アイドルが混然一体となった拓郎のチカラである。
このロス録音自体、拓郎はサウンドについて不満足だったと後に公言していた。しかしこの曲は何度聴いてもブッカー・Tのキーボードが静かに心に染み入るようで実に素晴らしい。この詞にある「なだらかな海」をどこまでも漂うような気分にさせてくれる歌と演奏だ。「なだらかな海の歌」とはさすが岡本おさみの詞は的確だ。って、どっちなんだよ。
翌81年ベストアルバム「ONLY YOU」で思い切ってレゲエっぽくリアレンジされたが、その評価を得る前に、この曲は静かに眠り着いてしまっている感がある。
この歳になるとはやはり原曲アレンジで、なだらかなキーボードに包まれてライブで聞き惚れたいと思ってしまう。そうなると80年の武道館での絶唱が忘れられないが、今の歌声で是非聴きたいものだ。
2015.4/10