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愛は誰かのとなりに

1983年
作詞 吉田拓郎 作曲 吉田拓郎       
アルバム「マラソン」

彷徨い苛立つボーカルのゆくえ

 1983年のアルバム「マラソン」所収。扱いは、比較的地味だが、歌も演奏も気合に満ちていて、拓郎の心情が覗くシリアスなナンバーだ。雨が降りそうな冷え冷えとした夜の街を一人彷徨するような拓郎の姿が目に浮かぶ。
 そもそも、このアルバムの一番のポイントは、拓郎本人によれば「声(vocal)」だったという。「歌いこんだおかげで、今自分の声がトテモいい声になっている。保険をかけてもいいと思ってる(笑)」そのとおり硬質で緊張感のあるボーカルだ。この作品もそれをフルに活用している。
 「例え小さな言葉でも お互いをダメにしてしまう」「どこかへ逃れたい できるだけ時をかけないで」このあたりの言葉のメロディーの乗せ方と陰影のある声と歌い方は、実に色っぽくてブルースのようにしみてくる。
 もうひとつのポイントはバンドの演奏。前年までの夥しい数のライブで練り上げられた「王様バンド」は、まるで拓郎の「装甲」のような鉄壁のイメージがある。イントロからしてドラマにぐいぐい引き入れられる。
 詞も歌も演奏もとてもタイトで、いろいろなことに苛立っている吉田拓郎が滲みでているようだ。その苛立ちは、世間的な吉田拓郎のイメージに対してなのか、うるさいファンに対してなのか、あるいは恋愛のことなのか、そこまではわからないが、拓郎を不自由にし、うるさくまとまわりつく宿敵や障害を払いのけようとしているような焦燥感と緊張感が作品の味付けにもなっている。
 さらに、この時期の特徴としては、拓郎自身がギターを「ッツカチャカチャン」と積極的に弾いていることだろうか。すまん音楽的に表現できん。
 「詞を書くときも推敲しないで書きなぐる、ギターもエフェクターとかを使わずにストレートにそのままの音を出したい」と、このアルバムのインタビューに答えていた。その時の拓郎の心情を象徴するものだったのだろうか。

2015.4/10