ああ青春
作詞 松本隆 作曲 吉田拓郎
アルバム「吉田拓郎ライブ・コンサート・イン・つま恋」/「ぷらいべえと」/「TAKURO TOUR 1979 Vol.Ⅱ」/「一瞬の夏」
壮大な「燃える陽炎」の点火スイッチは永遠に
この作品を聴くやいなや、多くの拓郎ファンの眼前には、それぞれの思い出の荒野が
一気に広がるに違いない。この歌の背負ってきた数々の歴史的大舞台を思うと、もはや一楽曲に止まるものではなく、ファンにとっての「心の点火スイッチ」のようなものといえる。
この作品は、最初、75年4月、中村雅俊・松田優作主演のドラマ「俺たちの勲章」のテーマ曲としてトランザムのインストバージョンが世に出た。その3か月後、あの75年つま恋のオープニングで拓郎がいきなり本人歌唱を披露。この時に歌詞がついてたことを初めて知った人も多かったのではないか。
記念すべき松本隆との初共同作品。メロディー先行で、後から「数え歌のような詞をつけてくれ」という後藤由多加のオーダーでつけたと松本隆は述懐する。
何と言っても、75年つま恋でのトランザムの荒削りで、灼熱の太陽が焼け付いたような熱い演奏がまず浮かぶ。緊張した面持ちでステージに飛び出してくる拓郎、燃え立つ5万人の観客の怒号。まさに歴史に残るオープニングだ。
その対極にあるアルバム「ぷらいべえと」での、燃え尽き、放心したような切ないバージョン。
そしてその傷心から再び決起するような扇情的な79年の篠島のオープニング。ステージ上であまりポーズをとらない拓郎だが、「ああ青春は~」のサビで、両手をつきあげていくところが、映像に残っており、もうたまらん。そして、85年つま恋では「ファミリー」の絶唱と盛り上がりを静かにしめくくるような「フィナーレ」の如き象徴的なバージョン。なお、原詩は、「息さえもつまる部屋」であるのが、75年はたぶん勢いで、79年はそれを踏襲して「息さえもつけぬ部屋」になっていることにも注意。何の注意だ。ともかく、その時々の拓郎の心象を反映するようないろいろなバージョンが残された。
しかし個人的にはアルバム「一瞬の夏」のバージョンこそが傑作だと思う。つまりは2004年のビッグバンドprecious storyツアーのオープニング。あのトランザムバージョンのドラマの予兆のような美しいピアノだけで逝きそうだ。続いてあの79年のアレンジで始まる堅牢な演奏。若き日の「熱さ」が、年齢を重ねた熟練の技にしっかりと高められている集大成をみるようだ。もし無人島に一個だけ「ああ青春」を持っていくとすれば、迷わずこのバージョンにしたい。>どういう状況だっ!
このバージョンはそのまま2006年のつま恋のラストステージにつながる。たぶん拓郎は「つま恋=ああ青春」という「お約束」感覚で軽く選曲をしたのかもしれない。しかし、いざ聖地つま恋で歌い始めると万感の思いに感極まってしまったようで、こみあげる感情を必死にこらえているような様子に見える。ムフフフ、甘く見おったな御大。
やはりこの作品は、幾年経とうと、歌唱するご本人にとっても、そして聴き入る私たちにとっても、「燃え立つ陽炎」でありつづけるのだ。
2015.4/5