ジャスト・ア・RONIN
作詞 安井かずみ 作曲 加藤和彦
シングル「ジャスト・ア・RONIN」/アルバム「RONIN」/DVD「1996年、秋」/DVD「TAKURO & his BIG GROUP with SEO 2005」
ひとりぼっちのRONIN
1986年公開映画「幕末青春グラフティRONIN坂本竜馬」(タイトル長過ぎだよ)の主題歌として初めて聴いた時はどこか違和感を感じた。あくまで個人的にだが、武田鉄矢主演の泥臭い幕末青春映画にしては、加藤和彦のハイセンスなメロディーと上品な歌声は、そぐわない気がしたものだ。特にこのメロディーは、凝り過ぎでちょっとムツカシイ。例えると場末の赤ちょうちんで星一徹がビンテージ・シャンパンを飲んでいるような違和感か。余計わかんねーよ。
しかし出色なのは拓郎のボーカルだろう。作詞の安井かずみは、公式インタビューでこの作品について
「ああ、拓郎の歌っていいなぁ。拓郎の声っていいなぁと思ったの。私の詩をうまく歌ってくれた・・・」と大絶賛だった。この作品が次作の「サマルカンド・ブルー」のプロジェクトにつながるとともに、加藤和彦・安井かすみ夫妻と拓郎・森下愛子夫妻との親密な家族交際、ある種の蜜月の始まりだったともいう。拓郎にとっても大切な一曲であった。
その後は、1987年の「南こうせつのサマーピクニック・海の中道ライブ」のゲスト出演の時以来、拓郎は単独で歌い続けている。ちょうど加藤和彦の自動車を微調整しながら、拓郎仕様に乗りこなすような歌い込みに、当初の違和感が消えて拓郎のスタンダードのような感覚になってきた。
圧巻は、1996年のラス・カンケル、クレイグ・ダーギーら外人バンドとの二年目のコラボ・ツアー。「ジャスト・ア・RONIN」は、ライブのオープニングを華々しく飾るとともに、なんとアンコール・ラストにもフルで歌われライブを締めくくった。こういう選曲の仕方は前代未聞に近い。おそらくは、1994年3月17日に亡くなった安井かずみへの追悼の意だったのかもしれない。
ついでにもう少し邪推すると、安井かずみの逝去後から1年後の1995年に加藤和彦は、安井かずみの遺品すべてを処分し、安井かずみに関する交友関係も総て絶ち再婚をした。島崎今日子著「安井かずみのいた時代」によると、拓郎のみならず多くの関係者がこの再婚に衝撃を受けていたことが示されている。それは決して加藤和彦を非難するものではなく、むしろ安井かずみという存在が、こんなに早くも雲散霧消してしまうことの不安だったと思われる。 この作品を自らのスタンダードとしようという動機はそこにもあるのかもしれない。
1996年のツアーでの「ジャスト・ア・RONIN」の異例のフィーチャーは、「ZUZUおまえのことは忘れていないぜ」という拓郎なりの宣揚だったのではないかと思う。2005年のビッグバンドでの演奏は、重厚でかつダンサブルなナンバーとなっていて、もはやこの作品の大いなる自立を感じさせた。